(2020.2.29)
代表医師の中嶋です。
今回は,2019年10月1日に発行された,「頭部外傷治療・管理のガイドライン第4版」(以下「ガイドライン第4版といいます。)のなかから,高齢者頭部外傷の初期治療について解説します。
このガイドラインは,第3版まで,「重症頭部外傷治療・管理のガイドライン」という名称でした。初版は2000年,第2版は2007年,第3版は2013年に作成されています。
ガイドライン第4版の序文によれば,近年,頭部外傷では中等症・軽症例が増加していることから,ガイドラインのタイトルをこの第4版から変更し,「重症」という言葉を外したそうです。
本邦では,人口構成の高齢化に伴い,高齢者頭部外傷が増加傾向です。このガイドライン第4版でも,高齢者頭部外傷の項目は,第3版よりも充実した内容となっています。
なお,ガイドライン第4版では,「高齢者」の対象年齢として,「おおむね60~70歳前後以上を高齢者と考えてよい」としています。
そのなかから,医療事故(院内での転倒事例等)で争点となりうる「初期診療(初期対応)」について解説します(ガイドライン第4版,174-175頁)。
★高齢者頭部外傷では,軽症であっても積極的に頭部CTを施行するよう勧められる
★抗凝固療法を受けている高齢者頭部外傷患者では,初回CT検査で異常が認められなくても経過観察入院を考慮してもよい
(解説)
高齢者頭部外傷では,talk and deteriorate,遅発性悪化が転帰不良の一因です。
このdeterioration(悪化)は急速かつ重篤であるため,頭部外傷後の初期段階で,頭蓋内損傷の有無を確認しておく必要があります。
したがって,頭部外傷後,意識レベル等に何ら変化を認めなかったとしても,頭蓋内損傷の見落としを回避するためには,積極的な頭部CT検査を要するといえます。
「転倒して頭部を打撲したけど,会話も可能で,様子もいつもと変わりないから,このまま様子を見よう」といった医療者の対応は,高齢者に関していえば,もはや不適切といえるでしょう。
さらに,抗凝固療法を受けている高齢者では,頭部外傷後の意識レベルがGCS 15(つまり意識障害なし)であっても,25%に頭蓋内出血が認められるという報告があります。
近年,抗凝固療法として,ワルファリンやDOAC(直接経口抗凝固薬)といった薬剤を服用している高齢者が増えています。
高齢者頭部外傷例では,抗凝固療法の有無に注目し,もし,抗凝固療法中と判明した場合は,早急に頭部CT検査を実施すべきといえます。
また,抗凝固療法中の高齢者頭部外傷患者では,初回CTで異常を認めない場合であっても,受傷後24~96時間以内に遅発性硬膜下血腫(delayed acute subdural hematoma: DASH)を認めることがあります。
したがって,厳重な経過観察を行うために,入院経過観察まで検討すべきでしょう。
以上です。
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