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  • 執筆者の写真脳神経外科専門医 中嶋浩二

メタボの改善は脳卒中の予防にならない!?



医学鑑定 医療事故

(2022.1.15)


代表医師の中嶋です。


今回は、ちょっと意外な医学知識を紹介したいと思います。


皆さんもよくご存じの「メタボリックシンドローム」、通称メタボですが、その特徴は内臓脂肪型肥満です。


この内臓脂肪型肥満により、糖尿病、脂質異常症、高血圧を引き起こし、心血管イベント、つまり心筋梗塞や脳卒中といった疾患のリスクが高まります。


なるほど、それなら、自分がメタボでも、がんばって改善すれば、脳卒中を予防できる!と思いますよね。


しかし、昨年発行された『脳卒中治療ガイドライン2021』によれば、メタボの改善による脳卒中の発症を予防する効果は、十分に証明されていないとのことです。


この意外な事実について、少し考察してみます。


まず、ご自分がメタボかどうか、気になったら、まずはウエストの径を測ります。なぜウエスト径かというと、内臓脂肪の蓄積度合いを反映しているからです。


ウエスト径の測り方は、立った状態で、軽く息を吐いたときに、ヘソの高さで測定します。息を思い切り吸い込んで、おなかを凹ませた状態で測定しても意味がありません!


男性で85 cm以上、女性で90 cm以上は、メタボの可能性があるので、次に、脂質、血圧、血糖の3要素を確認します。


具体的には、次の①~③の3項目のうち、2項目以上に該当すれば、メタボと判断します。


①血液検査で、中性脂肪が150 mg/dL以上 かつ/または HDLコレステロールが40 mg/dL未満


②血圧測定で、収縮期血圧(上の血圧)が130 mmHg以上 かつ/または 拡張期血圧(下の血圧)が85 mmHg以上


③血液検査で、空腹時血糖が110 mg/dL以上


なお、各項目に対して、すでに薬で治療中の場合は、数値にかかわらず、その項目に「該当する」とします。



医学鑑定 後遺障害


さて、皆さんはいかがでしたか?


もし、メタボであれば、次の事実を知っておく必要があります。


それは、多くの研究により、メタボは脳卒中発症の独立した危険因子であることが示されている、という事実です。


特に、女性のほうが男性よりも、メタボによる脳卒中発症リスクが高いとされています。


脳卒中は発症してしまうと、後遺障害が残存するおそれのある、非常に危険な病気です。

そのため、何よりも予防が大切といえます。


それでは、メタボと判定された場合、どのように脳卒中を予防すればいいのでしょうか?


脂質異常症、高血圧、糖尿病に対しては、それぞれが脳卒中の独立した危険因子なので、薬による治療の適応かどうか判断します。必要に応じて薬による治療を受けることは、当然、脳卒中の予防につながります。


しかし、もう一度、メタボの診断基準を振り返ってみましょう。そもそも、ウエスト径が基準値を超えていることが診断の第一歩です。


つまり、メタボと診断されないためには、ウエスト径の減少、すなわち、内臓脂肪を減らす必要があります。簡単にいえばダイエットです。


ダイエットすれば、脳卒中の発症を予防できるのか!と思いますよね。ところが、先にお伝えしたとおり、メタボの改善による脳卒中の発症予防効果は十分に証明されていません。


たしかに、肥満は脳卒中発症の危険因子であるという報告もあれば、否定的な報告もあります。

(※日本肥満学会の基準では、BMI 25以上が肥満です。BMIとは体重(kg)を身長(m)の2乗で割った値です。)


要するに、ダイエットしても、脳卒中の予防につながるとは十分に証明されていないのです。


とはいっても、メタボが危険因子となる疾患は、脳卒中だけではありません。


メタボと診断されたら、脂質、血圧、血糖に気をつけて必要なら治療をうけること

さらにはメタボと診断されないように、ウエスト径を普段から意識しましょう!


今回は、メタボリックシンドロームと脳卒中の意外な関係について解説しました。

最後までお読みくださり、ありがとうございました!



参考資料

日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会編:脳卒中治療ガイドライン2021、協和企画、2021

日本肥満学会編:肥満症治療ガイドライン2016、ライフサイエンス出版、2016


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