(2021.6.15)
代表医師の中嶋です。
今回は,今年の3月に発表された,『脳卒中データバンク2021』から,脳梗塞のエダラボン治療について,興味深いデータをご紹介します。
日本では,2001年より,急性期脳梗塞への治療として,脳保護薬エダラボンが使用されています。一方,アメリカやヨーロッパの脳卒中ガイドラインでは,エダラボンの記載はありません。果たして,エダラボンは本当に有効なのでしょうか。
この疑問に対し,脳卒中データバンクでは,登録症例(61,048人)について,脳梗塞病型別(アテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓症,ラクナ梗塞,その他)にエダラボンの神経症候改善効果を検証しています。
その結果によれば,いずれの脳梗塞病型でも,エダラボン投与群は,非投与群と比較して,退院時のNIHSSが入院時よりも改善し,統計学的に有意な神経症候改善効果を認めたとのことです。私も,これまで,エダラボンを多くの患者さんに投与してきたので,この結果には,胸をなでおろしました。
なお,NIHSSは,脳卒中神経学的重症度の評価スケールとして世界的にもっとも広く利用されている評価法の一つです。正常が0点,最重症は39点(静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版・17頁)となります。
さきほど,エダラボン投与によりNIHSSの改善を認めたと紹介しましたが,退院時と入院時のNIHSS差は,いずれの脳梗塞病型でも平均すると1ポイント未満でした。したがって,エダラボンによる神経症候改善効果の臨床的意義は,限定的である可能性が指摘されています。
ただ,アテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓症では,入院時NIHSSが15以上の重症者で,エダラボンによる神経症候改善効果が大きかったことから,NIHSS 15以上の重症者に限定して使用することは有益といえます。
一方,ラクナ梗塞では,エダラボンの効果が乏しい可能性も指摘されています。
今後は,エダラボンの適応があれば,すべての脳梗塞病型に対して投与するのではなく,病型や重症度によって適応を検討すべきでしょう。
詳しくは,『脳卒中データバンク2021』(中山書店)の157~161頁をご覧ください。
最後までお読みくださり,ありがとうございました。
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