(2022.2.3)
代表医師の中嶋です。
今回は、脳卒中の重要な病態であるTIAについて解説します。
TIAは、一過性脳虚血発作(transient ischemic attack)のことです。
TIAの定義は、時代とともに変化してきました。
まずは、その歴史から見てみましょう。
■TIA・定義の歴史
①1990年 米国National Institute of Neurological Disorders and Stroke (NINDS)
「脳虚血により局所神経症状が出現するが、24時間以内に完全に消失するもの」
②2002年 米国TIAワーキンググループ
「神経症状が短時間、典型的には1時間以内に消失し、かつ画像上の急性梗塞巣が認められない、局所脳虚血または網膜虚血に基づく短期間の神経学的機能異常」
③2009年 米国心臓協会(AHA)/ 米国脳卒中協会(ASA)の学術声明
「局所の脳、脊髄、網膜の虚血により生じる一過性神経学的機能障害で、画像上の脳梗塞巣を伴っていないもの」
④平成21年(2009年)度 厚生労働科学研究費補助金によるTIA研究峰松班の定義
「24時間以内に消失する脳または網膜の虚血による一過性の局所神経症状で、画像上の梗塞巣の有無は問わない」
→ 頭部MRI拡散強調画像(DWI)で新鮮病巣を認める場合は「DWI陽性のTIA」とする。
⑤2019年10月 日本脳卒中学会
「局所脳または網膜の虚血に起因する神経機能障害の一過性エピソードであり、急性梗塞の所見がないもの。神経機能障害のエピソードは、長くとも24時間以内に消失すること。」
■time-basedからtissue-basedへ
TIAの定義がどのように変化したのか、わが国と米国で比較しながらもう少し詳しく見ていきます。
(以下、数字は前項で示したものを指します。)
米国での定義は、かつて、症状の持続時間(24時間以内)が強調されていました(①)。
しかし、2002年の定義(②)を経て、2009年にAHA / ASAから出された定義(③)では、時間の記載はなくなり、画像診断で急性期脳梗塞を認めない、という組織傷害の有無に基づく定義、すなわち「tissue-based definition」へと移行しました。
(※definition:定義)
わが国の定義(④)では、MRI拡散強調画像の検査が実施できない一般開業医でもTIAの診断ができるように、との考えで、米国の定義とは異なり、画像診断での急性期脳梗塞の有無を問わないとされてきました。
しかし、2019年10月、日本脳卒中学会が「急性梗塞の所見がないもの」と組織傷害の有無に基づくTIAの定義(tissue-based definition)を明確に示しました(⑤)。
これにより、米国の定義とも整合することとなりました。
そして、この新しい定義の登場で、従来の「DWI陽性のTIA」という概念は消滅しました。
■TIAの診断にはMRI拡散強調画像が必須
新たなTIAの定義「tissue-based definition」(⑤)によれば、TIAと診断するには、MRI拡散強調画像で急性梗塞の所見がないことを確認しなければなりません。
つまり、神経機能障害のエピソード、例えば、片側の運動麻痺、言語障害が短時間(24時間以内)で消失したとしても、TIAと診断するには、MRI拡散強調画像が必須なのです。
■臨床でもTIAの診断には注意すべき
医療鑑定研究会には、弁護士の先生方からTIAの相談が多く寄せられています。そのなかには、いまだに症状だけでTIAと診断している例も少なくありません。
TIAの新たな定義に基づいた正しい診断が望まれます。
今回は以上です。
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
参考資料
日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会編:脳卒中治療ガイドライン2021,協和企画,2021
北川泰久ら監修:脳血管障害診療のエッセンス,日本医師会雑誌 第146巻・特別号(1),平成29年6月15日.
辻省次総編集:アクチュアル脳・神経疾患の臨床 脳血管障害の治療最前線,中山書店,2014.
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