(2022.3.12)
代表医師の中嶋です。
弁護士の先生方にとって、脳外傷による高次脳機能障害は、いまひとつ要点がつかみづらいと思います。
そこで今回は、基本に立ち返り、次のテーマでお話します。
「高次脳機能障害の後遺障害等級を争う前に確認したいこと」
絶対に確認してほしい点は、4つです。
01 症状
02 画像
03 意識障害
04 神経心理学的検査
要点を図解にまとめたので、お示しします。
01 症状
脳外傷による高次脳機能障害の症状は、頻度順に次のとおりです。
① 記憶障害
② 社会的行動障害
③ 注意障害
④ 遂行機能障害
重要な点は、これら4症状のいずれかが受傷直後から存在し、その後も継続していることを確認するということです。
さらに、これらの症状が原因で、日常生活・社会生活に制約や問題があることもい確認しましょう。
02 画像
脳外傷による高次脳機能障害を主張する上で、画像所見はきわめて重要です。
器質的脳損傷といえるのは、脳挫傷とびまん性軸索損傷です。
脳挫傷は、不可逆的な脳の挫滅創のことです。
びまん性軸索損傷は、広範な神経線維の断裂を指します。
これらの存在を確認する上で、脳の画像、特に受傷後急性期のMRIが重要です。
びまん性軸索損傷では、慢性期の脳萎縮を認めることがあります。この脳萎縮所見は重症例のみに出現します。全例に認めるわけではないので注意しましょう。
画像で器質的脳損傷を認めた場合、症状との整合は必須です。
例えば、
・前頭葉眼窩部の損傷 ― 情動コントロールの障害
・前頭葉背外側部の損傷 ― 遂行機能障害
などです。
この点も非常に重要なので覚えておきましょう。
03 意識障害
意識障害に関しては、3つのポイントがあります。
① 救急隊の記録も確認する
② 誤判定の可能性
③ 自賠責の基準は指針
以下、順に説明します。
① 救急隊の記録も確認する
多くの交通事故の場合、最初に意識障害の評価を行うのは救急隊です。
つまり、受傷直後の意識障害を把握するには、救急隊の記録が有用といえます。
② 誤判定の可能性
意識障害の評価には、JCSやGCSが用いられます。これらのスケールは非常に便利な反面、評価者の主観的判断も加わります。
そのため、経験の浅い医療従事者、特に研修医の場合、誤判定の可能性を疑い、他の記録と照合すべきといえます。
③ 自賠責の基準は指針
自賠責認定システムの報告書には、意識障害の程度と持続時間の基準が記されています。
これは審査漏れの防止を目的とした基準であって、「診断基準」ではありません。
くれぐれも間違えないようにしましょう。
04 神経心理学的検査
神経心理学的検査は、症状に応じた検査が行われているか、確認しましょう。
具体的には、以下のとおりです。
全般的認知機能の評価:WAIS-III
記憶障害:WMS-R・RBMT
注意障害:TMT-J・CAT
遂行機能障害:BADS
重要なのは、これらの検査で症状の程度を客観的に確認できるということです。つまり、症状の存在が前提となります。
検査の結果が異常でも、日常生活・社会生活に制約や問題がなければ、それは症状といえません。この点は間違えやすいので特に注意しましょう。
さらに、もう一つ重要なこと、それは神経心理学的検査結果の経時変化で、大幅に悪化することはない、ということです。
経時的に大幅な悪化を認める場合には、脳外傷とは異なる原因が加わったのかもしれません。そのため慎重な検討が必要となります。
以上です。
これからも一緒に学んでいきましょう!
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