(2019.6.17)
代表医師の中嶋です。
日本の総人口に占める65歳以上の割合は,26.7%(平成27年10月1日現在)と報告され,高齢化の進展に伴い,高齢者の脳卒中発症が増加しています。
今回は,高齢者の脳梗塞についての総説論文を紹介します。
中西 郁,平野照之:高齢者の脳梗塞.日本老年医学会誌 2017; 54: 508-513.
それでは,論文の内容で重要と思われる部分についてまとめます。
<高齢者の脳梗塞病型>
80歳以上では,脳梗塞病型のなかでも,心原性脳塞栓症が最多といわれています。その原因としては,心房細動が重要です。
心房細動は加齢とともに増加するため,高齢者では心原性脳塞栓症の頻度が多くなります。
心原性脳塞栓症は,突発発症し,症状が数分のうちに完成する上に,症状も重篤であることが特徴です。
わが国では,高齢化の進展とともに,心原性脳塞栓症がさらに増加すると危惧されています。
<アルテプラーゼ静注療法>
脳梗塞の治療として,発症から4.5時間以内では,アルテプラーゼ静注療法が推奨されています。
日本脳卒中学会が2005年10月に発表した『rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針』では,高齢者は転帰不良例が多いとされ,75歳以上は慎重投与項目と定められていました。
その後,データの蓄積に伴い,高齢者の転帰不良の原因は,高齢者特有の併存疾患,既存の身体障害等の影響が大きく,アルテプラーゼ静注療法で最大の問題となる出血性合併症(特に症候性頭蓋内出血)の危険性はそれほど上昇しないことがわかってきました。
日本で行われた他施設研究SAMURAI rt-PA Registryでも,アルテプラーゼ静注療法は,81歳以上は80歳以下と比較して,転帰は悪いが,出血リスクは増えないことが示されました。
そのため,2012年10月に発表された『rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針(第二版』では,81歳以上が慎重投与とされ,2019年3月に発表された『静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版』でも,この基準が継承されています。
<血栓回収療法>
2015年に相次いで発表されたランダム化比較試験で,発症6時間以内の主幹動脈閉塞を伴う脳梗塞には,アルテプラーゼ静注療法を含む内科治療に加えて,ステント型リトリーバーを用いた血栓回収療法を追加すると,転帰の改善につながることが示されました。
いくつかの試験結果では,高齢者への有効性も示され,血栓回収療法も年齢に左右されず,適応を積極的に検討するべきといわれています。
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このように,高齢化が進展するわが国では,高齢者であっても,急性期脳梗塞の治療として,アルテプラーゼ静注療法や血栓回収療法が積極的に行われることで,転帰の改善につなげていくことが期待されています。
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