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執筆者の写真脳神経外科専門医 中嶋浩二

頚動脈ステント留置術(CAS)の安全性について考える


(2019.11.30)


代表医師の中嶋です。

頚動脈狭窄症に対する頚動脈内膜剥離術(以下「CEA」といいます。)の有効性が示されて20年が経過しました。


その後,頚動脈ステント留置術(以下「CAS」といいます。)が普及し,現在では,CASの件数がCEAを上回っています。


CASは血管の狭くなっているところを広げるというコンセプトはシンプルですが,血管の狭くなっているところを広げた際に,狭くなっている原因の物質(プラークや血栓等)が血管壁から脱落し,血流に乗って脳の血管を閉塞させ,脳梗塞を発症する危険性があります。


CEAと比較して,CASは安全な治療といえるのでしょうか。


今回は,CASについて,これまでの研究報告をまとめた最新の論文をご紹介します。


タイトル

頚動脈狭窄症に対する治療選択

―エビデンスからみた頚動脈ステント留置術の位置づけ,今後の展開について―


著者

里見淳一郎


掲載誌

脳神経外科ジャーナル 2019; 28: 777-782(脳神経外科ジャーナル 2019年12月号)



以下に,本論文で取り上げられている,CASとCEAを比較した研究を紹介します。


1 SAPPHIRE study


・対象:CEA高危険基準(重症心疾患,重症肺疾患,対側内頚動脈閉塞,対側喉頭神経麻痺,頚部手術の既往,CEA後再狭窄,80歳以上)を少なくとも1つ満たす症例


・結果:30日以内の脳卒中/心筋梗塞/死亡はCAS群4.8%,CEA群9.8%とCAS群で少ない傾向を認めた。


(解釈)頚動脈狭窄症のCEA高危険群では,CASのCEAに対する非劣性が証明された



2 EVA-3S


・対象:症候性頚動脈狭窄(中等度以上狭窄)


・治療:CASで脳塞栓の合併症を防ぐために有効な塞栓防御機材(embolic protection device: EPD)は92%で使用されていた。


・結果:治療後30日以内の全脳卒中/死亡は,CAS群で9.6%,CEA群で3.9%であった。


(解釈)CASのCEAに対する非劣性を示せなかった



3 SPACE


・対象:症候性頚動脈狭窄(中等度以上狭窄)


・治療:CASで塞栓防御機材(EPD)は27%の使用で使用された。


・結果:治療後30日以内の病変側脳卒中/死亡)は,CAS群で6.8%,CEA群で6.3%であった。


(解釈)CASのCEAに対する非劣性を示せなかった



4 ICSS


・対象:症候性頚動脈狭窄


・治療:CASで塞栓防御機材(EPD)は72%で使用されていた。


・結果:治療後120日以内の脳梗塞/死亡は,CAS群で4.0%,CEA群で3.2%であった。これに心筋梗塞を加えると,CAS群で8.5%,CEA群で5.2%とCAS群で有意に多かった。

 長期追跡結果では,5年での全脳卒中はCAS群で15.2%,CEA群で6.5%とCAS群のほうが有意に高かった。脳卒中のほとんどが軽症脳梗塞であった。


(解釈)CASのCEAに対する非劣性を示せなかった



5 CREST


・対象:症候性病変(50%以上の狭窄),無症候性病変(70%以上の狭窄)


・治療:CASでは塞栓防御機材(EPD)の使用を義務づけ


・結果:治療後30日以内の全欧卒中/心筋梗塞/死亡,ならびに4年以内の同側脳卒中は,CAS群で7.2%,CEA群で6.8%と有意差は認められなかった。

70歳以上ではCEAが好成績であった。


(解釈)CASのCEAに対する非劣性が証明された



6 ACT-1


・対象:無症候性中等度狭窄(70%以上)


・治療:CASでは塞栓防御機材(EPD)の使用を義務づけ


・結果:治療後30日以内の欧卒中/心筋梗塞/死亡および1年以内の病側脳卒中は,CAS群で3.8%,CEA群3.4%であった。心筋梗塞を除いた30日以内の脳卒中/死亡は,CAS群で2.9%,CEA群で1.7%と有意差を認めなかった。また,5年の長期観察でのイベント発生率もCASとCEAで差を認めなかった。


(解釈)CASのCEAに対する非劣性が証明された



この論文のまとめ


CEA高危険群では,CASのCEAに対する非劣性が証明された(SAPPHIRE study)。


・通常リスクの頚動脈狭窄症では,CASのCEAに対する非劣性は示されなかった(EVA-3S,SPACE,ICSS)。その要因としては,CASにおける塞栓防御機材(EPD)の使用が義務づけられておらず,また術者も厳格に選定されておらず,CAS自体のクオリティーが担保されていなかったことが挙げられる。


・CASはデバイスの改良,特に塞栓防御機材(EPD)が日進月歩を遂げているため,治療成績がさらに向上している。


・一方,CASの問題点として,高齢者(70歳以上)で成績が不良であること,塞栓防御機材(EPD)を使用してもなお,脳梗塞の発生が少なくないことが浮き彫りとなった。


・日本における頚動脈狭窄症へのCAS,CEAの比率は,2004年以降,CASの件数がCEAを上回り,以後,増加の一途を示し,最近では全体の2/3をCASが占めている。

 また,デバイスの適正使用,日本脳神経血管内治療学会主導による術者の教育・養成の成果も相まって,治療成績は年を追うごとに向上している。その結果,諸外国の成績を凌駕する状況にある。


・近年,2層構造のステントが開発されている。内層にメッシュ構造を採用することで,CASによる脳梗塞の発症率を低減できるというデータも発表され,今後,日本でも普及が期待される。



 以上です。CASは患者さんにとって,侵襲性の低い,魅力的な治療と捉えられがちですが,合併症として脳梗塞の危険性があることを術前にしっかりと説明し,患者さんに理解してもらう必要があります。治療としては,抗血小板薬による内科的治療も一定の効果が得られることも,患者さんに示すべきでしょう。


これからも,弁護士の皆様の役に立つと思われる医学的知見を紹介していきます。

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