top of page
  • 執筆者の写真脳神経外科専門医 中嶋浩二

軽症の頭部外傷におけるCT施行基準について 「コツンとぶつけただけでもCT?」


(2019.10.12)

代表医師の中嶋です。


今回は,日本脳神経外科コングレスの機関紙「脳神経外科ジャーナル」の最新号(28巻10号)に掲載された論文をご紹介します。


テーマは「軽症頭部外傷におけるCT施行基準」です。


臨床現場でも,頭部外傷例に対して,画像検査を実施すべきかどうか悩む場面は少なくありません。まず問題ないだろうとは思うけど,もし頭蓋内に出血していたらどうしよう・・・と葛藤しています。


最後は医師の判断に委ねられるわけですが,後に悪しき結果(死亡や後遺症)が生じた場合を考えると,明確な判断基準があってくれればというのが,医師の正直な気持ちです。


今回ご紹介する論文は,軽症の頭部外傷例におけるCTの施行基準について,詳しく解説しています。


論文のなかでは,「成人」と「小児」の場合に分けて検討しています。

その理由として,高齢者では頭蓋内病変を有する危険性が高いという特徴があるため,CT検査の閾値は低くなり,小児ではCT検査による放射線被曝と検査中の体動という問題があるので,CT検査の閾値は高くなることから,CT施行基準を分けて考えるべきとされているからです。

本ブログでも,今回は論文のなかの「成人」について言及した部分を解説します。


論文情報

タイトル:軽症頭部外傷におけるCT施行基準

著者:塩見直人,平泉志保,野澤正寛ら

掲載雑誌:脳神経外科ジャーナル 2019; 28: 629-636


以下に論文の要点について,解説を加えつつ説明します。


1 「軽症」の定義は,受診時のGlasgow Coma Scale (GCS) が14あるいは15の症例とする場合が多い。

(解説)GCS 13も軽症とする報告があります。しかし,GCS 13の例では,頭蓋内病変を合併する率が高く,開頭術が必要となる頻度も高いため,中等度に分類することが妥当と考えられています。


2 わが国はCTの設置数が多いため,諸外国と比較して,CTを実施しやすい環境である。

(解説)日本では,人口100万人あたりのCT台数が101.3台とOECD平均(24.6台)の約4.1倍です(参考資料:厚生労働省 第3回医療計画の見直し等に関する検討会 資料2 平成28年7月15日)。実際,日本のほとんどの救急病院にCTが設置され,24時間いつでも実施可能な状況です。


3 成人のCT施行基準で最も重要なのは意識レベルで,GCS 14でもCTが必要である。

(解説)飲酒または薬物中毒による意識障害の場合もCTを実施します。


4 60歳以上の高齢者は積極的にCTを施行すべきである。

(解説)高齢者の定義は一般に65歳以上ですが,CT施行基準に関する海外の報告では60歳以上とされているため,それに合わせてこの論文でも60歳以上を高齢者としています。

高齢者では脳萎縮によって,軽微な頭部外傷でも脳が大きく動き,脳表の架橋静脈が損傷を受け,出血をきたしやすいといわれています。


5 頭蓋内病変を窺わせる症状として,頭痛,嘔気,嘔吐などを認めた場合はCTが必要である。

6 その他,CTを推奨する状況として,頭部の外傷所見(打撲痕や挫創など)を認める場合や,危険な受傷機転(高エネルギー外傷)の場合が挙げられる。

(解説)頭部外傷の患者に対して,頭部の外傷所見(簡単にいうとキズや腫れ)を確認することは必須です。

高エネルギー外傷とは,高所墜落,同乗者が死亡した自動車事故,車が横転するような自動車事故,歩行者・自転車が車に衝突された,などによる外傷を指します。


以上をまとめると,成人の頭部外傷でCTが必要な場合は,

・意識清明ではない(GCS 14以下)

・60歳以上

・頭痛,嘔気,嘔吐といった症状を認める

CTが推奨される場合は,

・頭部の外傷所見(打撲痕・挫創など)を認める

・高エネルギー外傷

が挙げられます。


これからも,弁護士の皆様の役に立つと思われる医学的知見を紹介していきます。

ご意見・ご質問は,本サイトのお問い合わせフォームよりお寄せ下さい。


bottom of page