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  • 執筆者の写真脳神経外科専門医 中嶋浩二

脳血栓回収療法 ~治療開始までの時間短縮に向けて~


(2020.2.8)


代表医師の中嶋です。


今回は脳梗塞急性期における,脳血栓回収療法までの時間短縮に関する最新の論文を紹介します。


佐藤文哉,高橋賢吉,久我純弘ら:脳血栓回収療法における患者来院から手術開始までの時間短縮の取り組み.脳卒中 2020; 42: 1-7.


脳血栓回収療法では,発症からより短時間で,閉塞血管の再開通を得ることが重要です。


一般的に,患者さんが来院してから,脳血栓回収療法を開始するまでの時間は,60~75分となるように提唱されています。


この論文では,地域の脳卒中診療を担う病院の取り組みについて紹介されています。


以下に要点を列挙します。


■まず,患者来院から脳血栓回収療法開始までの目標時間を60分以内に設定した。

具体的には,

患者来院から頭部MRI開始までが目標10分

患者来院からt-PA投与開始までが目標40分

患者来院から脳血栓回収療法開始までが目標60分

となっています。


■時間短縮のために以下のような取り組みを開始した。


・頭部MRI検査後に血管撮影室(脳血栓回収療法を行う場所)へ直行し,脳血栓回収療法の準備と併行してt-PA静注療法を行う。


・従来,夜間休日は,救急外来看護師1名で対応していたが,脳血栓回収療法の適応例では,応援看護師1名を加えて2名で対応することにした。


・職員教育面として,これまでの医師による定期的な勉強会に加えて,実症例の治療動画や,患者来院からの手順をまとめた模擬動画を職員が自作して学習に用いた。


■取り組みの結果,患者来院から脳血栓回収療法開始までの時間が,平均87分(66-103分)から,67分(55.3-82.8分)へと有意に短縮された。

特に,夜間休日で有意に時間短縮された。


■患者来院から画像検査開始までの目標時間を超過した症例は,56例中27例,48.2%であった。

この27例の主な要因は以下のとおりであった。

・静脈路確保困難 5例

・嘔吐や尿便失禁など画像検査前に処置が必要 14例

これら19例は,その大半(68.4%)が人員確保の難しい夜間休日の症例であった。


■患者来院から脳血栓回収療法開始までの目標時間を超過した症例は,56例中37例,66.1%で,このうち,画像検査までは目標時間内であったものの,その後に時間を要した例は56例中14例,25%であった。


この14例中,治療適応が微妙で,家人を連絡がつかないために目標時間を超過した例は14例中6例,42.9%であった。

残りの8例,57.1%は,血管撮影室が使用中のために待機を要した例であった。


■今後は以下のような取り組みによって,さらなる時間短縮を目指している。

・MRI検査は救急患者を最優先する。

・MRI装置を現状の3台から4台に増設する。

・血管撮影室を増設する。

・夜間休日の人員不足時は更に増員する。


論文の要点は以上です。

脳血栓回収療法を迅速に開始するためには,コメディカルスタッフの協力が不可欠です。

職員教育によって,病院全体の知識水準を向上させることの重要性を再認識した論文でした。


これからも,弁護士の皆様の役に立つと思われる医学的知見を紹介していきます。

ご意見・ご質問は,本サイトのお問い合わせフォームよりお寄せ下さい。


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