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執筆者の写真脳神経外科専門医 中嶋浩二

脳梗塞急性期における血栓溶解療法ー新たな薬剤の可能性ー


(2019.4.14)

代表医師の中嶋です。


現在,わが国では,脳梗塞急性期の血栓溶解療法として,アルテプラーゼの静注療法が行われています。アルテプラーゼは血栓溶解薬として,広く使用されていますが,治療対象血管が内頚動脈や近位部中大脳動脈の場合,再開通率の低さが指摘されています。そのため,アルテプラーゼ静注療法で再開通が得られなければ,血管内治療(血栓回収療法)を行うことが主流となっています。

テネクテプラーゼ(Tenecteplase)は,アルテプラーゼの蛋白構造を改変した薬剤で,アルテプラーゼよりも血栓の主成分であるフィブリンへの親和性が高いうえに,ボーラス投与(急速静注)が可能で,しかも半減期が長いため,アルテプラーゼよりも高い効果が期待されています。

すでに心臓の領域(虚血性心疾患)では,使用されている薬剤です。

今回は、虚血性脳血管障害において,テネクテプラーゼとアルテプラーゼの有効性を比較した論文を紹介します。


掲載雑誌:New England Journal of Medicine(impact factor:79.258 ⇒ 影響度の大きな雑誌です)

タイトル:Tenecteplase versus Alteplase before Trombectomy for Ischemic Stroke

著者:Campbell BCV, Mitchell PJ, Churilov L, 他

掲載号数・ページ:2018; 378(17):1573-1582


論文内容

試験名:EXTEND-IA TNK試験(テネクテプラーゼとアルテプラーゼのランダム化比較試験)

組み入れ対象:発症4.5時間以内で,CT血管造影にて内頚動脈,中大脳動脈,脳底動脈のいずれかに閉塞を認め,発症6時間以内に血栓除去を実施可能な脳梗塞患者で,年齢やNIHSSでの除外項目は設定されていない。

除外基準:発症前に重度の機能障害(mRS 3以上)が存在する患者

割り付け方法:対象患者をテネクテプラーゼ群またはアルテプラーゼ群にランダムに割り付けた(閉塞血管部位で層別化を実施)。

主要評価項目:一次評価項目は,治療後,初回の脳血管撮影で閉塞血管が灌流する領域のうち,50%を超える領域の再灌流,または回収可能な血栓の消失とした。脳血管撮影の実施が不可能な場合は,治療後1から2時間で実施したCT灌流画像において,閉塞血管の灌流領域の50%以上で再灌流が得られた場合とした。二次評価項目は,発症90日目のmRS,早期の神経学的改善(発症72時間でNIHSSが少なくとも8点以上改善または0から1点まで改善)とした。安全性の評価項目は,死亡,症候性頭蓋内出血(治療後36時間以内に発生してNIHSSが少なくとも4点以上悪化)とした。

結果:テネクテプラーゼ群,アルテプラーゼ群はそれぞれ101人で両郡の患者特性に偏りはなかった。

初回の脳血管撮影で閉塞血管が灌流する領域のうち,50%を超える領域の再灌流,または回収可能な血栓の消失を認めたのは,テネクテプラーゼ群で22人(22%),アルテプラーゼ群で10人(10%)となり,補正後のオッズ比は2.6(95%CI, 1.1-5.9; p=0.02)であった。

90日目の時点で機能的自立(mRSで0から2)の状態となったのは,テネクテプラーゼ群で64%,アルテプラーゼ群で51%とテネクテプラーゼ群で機能的転帰も良好な傾向を認めたが,統計的に有意差はなかった。

発症早期の神経学的改善も,テネクテプラーゼ群で71%,アルテプラーゼ群で68%と有意差はなかった。

死亡率や症候性頭蓋内出血の頻度は両群間で有意差はなかった。


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解説

この論文の意義は、発症4.5時間以内で,血栓回収療法が予定されている患者において,テネクテプラーゼはアルテプラーゼよりも再開通率が高く,機能的転帰も良好な可能性があるといえます。ただし,内頚動脈,中大脳動脈,脳底動脈の閉塞において,テネクテプラーゼによる再開通率は22%,アルテプラーゼではわずか10%とかなり低いことが明らかとなりました。血栓溶解療法に続いて,血栓回収療法が必要となる可能性が高いと考え,急性期脳梗塞の治療は血栓回収療法まで可能な施設で行われるべきといえます。


※なお,2019年4月14日現在,テネクテプラーゼは,急性期脳梗塞に対して未承認です。


これからも,弁護士の皆様の役に立つと思われる医学的知見を紹介していきます。

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