(2019.5.29)
代表医師の中嶋です。
本日は,最新の医学論文の紹介ではなく,脳卒中や頭部外傷の病態を理解する上で,基礎ともいえる「頭蓋内圧」について,要点をまとめました。
頭部外傷患者が死に至る最大の要因は,コントロール不能な頭蓋内圧亢進といわれています。出血性の脳血管障害においても,頭蓋内圧亢進は死亡の原因となります。
ところで,頭蓋内圧の正常値はご存知でしょうか?
成人では,15 mmHg未満が正常とされています。
それでは,頭蓋内圧が亢進すると,どのような変化をきたすのでしょうか?
通常,「脳灌流圧=平均血圧-頭蓋内圧」 という関係が成立します。
つまり,頭蓋内圧が亢進したとき,平均血圧の上昇がなければ,脳灌流圧は低下します。
脳灌流圧が低下すると,脳血流量が減少し,脳虚血に陥り,脳細胞の機能が停止することで,さまざまな障害をきたします。
頭蓋内圧亢進によって,脳血流量が減少すると,脳血管の自動調節能が機能し,脳血管が拡張し,脳血流量が増加することで,頭蓋内圧はさらに上昇する・・・という悪循環が生じます。これを血管拡張性カスケードと呼びます。
重症頭部外傷患者において,頭蓋内圧測定は,治療を行う上で非常に重要です。
意識レベルがGCS 8点以下の最重症例では,頭蓋内圧(ICP)センサーの留置を行うべきとされています。
治療では,頭蓋内圧を20 mmHg以下にして,脳灌流圧を60 mmHg以上にコントロールすることを目標にします。
転帰を決定する頭蓋内圧の閾値は35 mmHgといわれ,脳灌流圧については,成人で55 mmHg以下,小児で43~45 mmHg以下になると,有意に転帰が悪くなるといわれています。
つまり,頭蓋内圧亢進時には,脳灌流圧の低下を回避して,60~70 mmHg以上を維持することが目標となります。
このことは,日米の重症頭部外傷治療のガイドラインでも指摘されています。
したがって,脳灌流圧低下の原因が,頭蓋内圧の上昇にあるのなら,まずは,頭蓋内圧亢進の原因を取り除き,頭蓋内圧を下げる努力をします。
頭部外傷による急性硬膜下血腫,急性硬膜外血腫,脳卒中として脳内出血といった病態で,頭蓋内圧が上昇し,脳灌流圧が低下している場合は,すみやかに血腫を除去し,頭蓋内圧を下げる必要があるのです。
このように,病態を基礎から理解すると,治療の緊急性も理解しやすいと思います。
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