(2019.11.24)
代表医師の中嶋です。
今回は,わが国から報告された認知症診断に関する論文を紹介します。
日本で認可されている抗認知症薬は,ほとんどがアルツハイマー型認知症で効果が検証されたものです。
そのため,抗認知症薬の投与前には,アルツハイマー型認知症の診断が適切になされるべきです。
認知症は,アルツハイマー型認知症だけではなく,様々な疾患が原因となります。
そのなかに,甲状腺機能低下症も含まれています。
甲状腺機能の低下は,60歳以上の4.4%に認めるとの報告があります。決してまれではありません。
認知症疾患治療ガイドライン2017でも,甲状腺機能低下症を鑑別するために,血液検査で甲状腺ホルモンの測定が推奨されています。
わが国では,抗認知症薬の投与前に甲状腺ホルモンの測定が適正に行われているのでしょうか。
この点を解明したのが本日紹介する論文です。
論文情報
タイトル:Thyroid function tests before prescribing anti-dementia drugs: a retrospective observational study
著者:Sakata N, Okumura Y
掲載雑誌:Clinical Interventions in Aging 2018; 13: 1219-1223
この研究は,日本で2015年4月から2016年3月までの期間に,新たに抗認知症薬を処方された,65歳以上の患者を対象とした後ろ向き観察研究です。
上記の条件に該当したのは262,279例でした。
抗認知症薬を処方した医療機関は34,492施設で,医療機関の内訳は,クリニック・診療所が54%,病院が40%,認知症センターが6%でした。
抗認知症薬の投与前に甲状腺機能の検査が行われたのは,全対象例の32.6%と,半数に満たないことが判明しました。
医療機関別の甲状腺機能検査の実施率は,
クリニック・診療所 26%
病院 38%
認知症センター 57%
でした。
クリニック・診療所では,抗認知症薬の処方が最も多く行われているにもかかわらず,甲状腺機能検査の実施率は最も低かったという結果でした。
この理由として,設備やスタッフの不足といった事情も挙げられています。
高齢者の甲状腺機能低下では,特徴的な身体所見に乏しいことが指摘されています。
そのため,血液検査を実施しなければ,甲状腺機能低下の鑑別が困難です。
甲状腺機能の血液検査は,特殊な検査ではありません。認知症のスクリーニングとして行うべき検査です。
以上が論文の概要です。
2018年8月,フランスでは,抗認知症薬が効果の乏しさと副作用の問題から,公的医療保険の対象から外れました。
わが国でも,抗認知症薬の効果を引き出し,適用外使用による副作用を抑制するために,高齢者に抗認知症薬を処方する前には,甲状腺機能の検査を行い,抗認知症薬の適正使用を心がける必要があると思います。
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