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執筆者の写真脳神経外科専門医 中嶋浩二

未破裂脳動静脈奇形の治療方針について ~本当に内科的治療でよいのか~


(2019.6.25)

代表医師の中嶋です。

以前,このブログで,未破裂脳動静脈奇形に関する,Lancetに掲載されたARUBA trialの論文を紹介しました(2017年10月4日)。


ARUBA trialの結果では,未破裂脳動静脈奇形の治療において,侵襲的治療よりも内科的治療のほうが優ることが示されました。


他にも,英国スコットランドで行われたScottish Auditという16歳以上の脳動静脈奇形に対するコホート研究でも,保存的治療群のほうが侵襲的治療群よりもリスクが少なかったと報告されています。


この2つの研究の結果から,未破裂脳動静脈奇形に対する外科的治療は,慎重な判断が求められているといえます。


しかし,ARUBA trialやScottish Auditの結果を根拠に,すべての未破裂脳動静脈奇形で手術は行わず,保存的(内科的)な治療を行うべきなのでしょうか。


今回,ARUBA trialとScottish Auditの2研究に関する問題点を含む,脳動静脈奇形治療を取り上げた論文を紹介します。


髙木康志:脳動静脈奇形治療のエビデンスとリアルワールド.脳神経外科ジャーナル 2019; 28: 142-148


脳動静脈奇形に対する手術の危険性は,Spetzler-Martin gradeで評価します。


Spetzler-Martin gradeが低い症例について,外科的治療を数多く手がけてきた施設からは,ARUBA trialよりも良好な治療成績が報告されています。


また,ARUBA trialでは,外科的治療の危険性が低いとされるSpetzler-Martin grade I,IIの外科的治療症例が少ないことも,問題視されています。


2017年,欧米のAVM治療のエキスパートの意見がまとめられ,未破裂脳動静脈奇形は治療すべきかという命題に対し,安全に治療できる症例は治療すべきであるとし,参加者全員がARUBA trialの結果をすべてのAVMに当てはめることはできないと断言しました。


このような状況のなかで,2017年,AHA/ASAからは,未破裂脳動静脈奇形の治療について,次のような発表がなされました。


「2つの臨床研究(ARUBA trial,Scottish Audit)はfollow-up期間が短く,小児例を含まないため,一般化することが困難で,合併症率も予想されたより高いといったことが,未破裂脳動静脈奇形に対して非侵襲的なアプローチを支持するという結論を弱めている。未破裂脳動静脈奇形に関しては,治療リスクと治療法,余命を慎重に考慮したうえで治療方針を決定するべきである。」


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このように,ARUBA trialの結果は,懐疑的な部分もあることから,未破裂脳動静脈奇形の治療については,個々の症例ごとに,慎重な検討が必要といえます。


これからも,弁護士の皆様の役に立つと思われる医学知識を紹介していきます。


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