(2019.4.26)
代表医師の中嶋です。
今回は,2019年3月に「脳神経外科ジャーナル」誌で発表された論文を紹介します。
その内容は,未破裂脳動脈瘤の自然歴,治療成績,高齢者での特徴などについて,これまでの知見をまとめたものです。
タイトル:未破裂脳動脈瘤の自然歴-最新の知識と臨床判断へのフィードバック
著者:菱川朋人,平松匡文,杉生憲志ら
掲載雑誌・ページ:脳神経外科ジャーナル 2019; 28: 120-126
以下,重要と思われる点を列挙します。
(「コメント」は筆者のコメントです)
・わが国において,未破裂脳動脈瘤は一般人口の約3%で見られる。
高齢化社会を迎えたわが国では,今後,未破裂脳動脈瘤の発見率が上昇すると予想されている。
(コメント:10万人の人口の町であれば,3,000人が未破裂脳動脈瘤をもっていることになります。この保有率からすれば,未破裂脳動脈瘤は決してまれではないといえます)
・未破裂脳動脈瘤の破裂リスクを理解する上で基本となるのはUCAS Japanである。UCAS Japanは日本で行われた前向きコホート研究で,その結果,日本人における脳動脈瘤の年間破裂率は0.95%であることがわかった。
破裂のリスクは,①7 mm以上のサイズ,②ブレブの存在,③前交通動脈瘤,内頚動脈後交通動脈分岐部動脈瘤
(コメント:年間破裂率は約1%といわれている根拠です。しかし,ここに挙げた3つのリスクや,動脈瘤の部位によって,破裂率は変わります。この点について,UCAS Japanではより詳しい解析をしています)
破裂の傾向を示すリスクは,①女性,②高血圧
破裂に関係のない因子は,①クモ膜下出血の既往,②家族歴,③喫煙,④多発性
であった。
(コメント:高血圧が破裂と関係性ありというのは理解しやすいと思います。意外なのは喫煙は破裂と関連性がないという点です)
・本邦での治療成績:重篤な合併症を4.5%に認め,術後,mRS 2以上の転帰良好例の割合はクリッピング術3.8%,コイル塞栓術で12.4%とコイル塞栓術のほうで有意に多かった。
(コメント:コイル塞栓術のほうが,侵襲が少なく,転帰良好例も多いというデータによって,現在ではわが国でも広く普及しています)
・70歳以上の高齢者未破裂脳動脈瘤では,年間破裂率は1.6%で,有意な破裂リスクは,①80歳以上,②7 mm以上のサイズ,③内頚動脈後交通動脈瘤と報告されています。
(コメント:高齢であればあるほど,破裂リスクが高まるといえます)
以上,未破裂脳動脈瘤の知見をまとめた論文の解説でした。
未破裂脳動脈瘤の治療に際しては,こういった自然歴や治療成績に関するデータを患者さんにも理解してもらった上で,治療について協議する必要があるといえます。
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