(2020.5.4)
代表医師の中嶋です。
今回は,TIAの急性期治療について解説します。
2019年10月,日本脳卒中学会より「脳卒中治療ガイドライン2015 [追補2019] 」が公開されました。
「脳卒中治療ガイドライン2015」は,2017年にも改訂されました。
今回が2回目の改訂です。
TIAとは,「一過性脳虚血発作」のことです。
例えば,「突然,右の手足が動かなくなったけど,15分で治った」といった場合に,TIAが強く疑われます。
脳卒中治療ガイドライン2015 [追補2019] の解説によれば,TIA発症後,何も治療を受けなければ,90日以内に脳卒中を発症する危険度は15~20%に達します。
一方,発症24時間以内にTIAあるいは軽症脳卒中と診断され,直ちに治療が開始された場合,90日以内の大きな脳卒中発症率は,わずか1.24%となり,治療しなかった場合に比べて,脳卒中発症率は79.2%も軽減することが報告されています。
このことから,TIAは脳卒中(特に脳梗塞)の「前兆」として,直ちに治療を開始することが重要といえます。
その治療について,脳卒中治療ガイドライン2015 [追補2019] では,次のような変更が加えられました。
<変更前>
急性期に限定した抗血小板薬2剤併用療法(アスピリン+クロピドグレル)も勧められる(グレードB)。
↓
<変更後>
ABCD2スコア4点以上の高リスクTIA例では,急性期に限定した抗血小板薬2剤併用療法(アスピリン+クロピドグレル)も勧められる(グレードB)。
変更前までは,どのようなTIAに対して,抗血小板薬2剤併用療法(アスピリン+クロピドグレル)を行うべきなのか,明確ではなかったのです。
しかし,今回の改訂で,その点が明確に示されました。
それが,「ABCD2スコア4点以上の高リスクTIA例」です。
ここで,ABCD2スコアについて,復習したいと思います。
ABCD2スコアは,TIA後の脳梗塞発症の危険度を予測するスコアです。
A:年齢(Age)
60歳以上=1点
B:血圧(Blood pressure)
収縮期血圧 140 mmHg以上または拡張期血圧 90 mmHg以上=1点
C:臨床症状(Clinical features)
片側の運動麻痺=2点 麻痺を伴わない言語障害=1点
D:持続時間(Duration)
60分以上=2点 10~59分=1点
D:糖尿病(Diabetes)
糖尿病あり=1点
合計スコアは7点です。スコアが大きくなるにつれて,脳梗塞の発症リスクが高くなります。
日本のTIA研究班は,4点以上であれば,緊急入院の検討を行うべきと報告しています。
そして,今回のガイドライン改訂では,4点以上であれば,抗血小板薬2剤併用療法(アスピリン+クロピドグレル)を行うべきであることが明確に示されました。
その主な根拠となった研究の一つが,POINT試験です。
この研究は,New England Journal of Medicineに掲載されています。
Johnson SC, Easton JD, Farrant M, et al: Clopidogrel and Aspirin in Acute Ischemic Stroke and High-Risk TIA. N Engl J Med 2018; 379: 215-225.
この報告によれば,18歳以上で発症12時間以内のTIA(ABCD2スコア4点以上)または軽症脳梗塞(NIHSS 3点以下)の例を対象に,アスピリン(50~325 mg/日)とクロピドグレル(初日600mg,2日目以降75mg/日)の2剤併用群とアスピリン(50~325 mg/日)単独群を比較したところ,90日後の虚血性脳卒中発症率は,2剤併用群で4.6%,アスピリン単独群で6.3%で,2剤併用群では虚血性脳卒中のリスクを28%低減できたとしています。
しかし,出血性合併症の発症率は,2剤併用群で有意に多かったとも報告しています。
この点について,2剤併用群では,投与開始後,最初の7日間でより大きな効果が得られ,一方,出血合併症の危険性は,投与開始後,8日目以降で大きくなると指摘しています。
なお,本研究では,アスピリンの投与量について,治療医の選択に委ねられていましたが,米国のガイドラインでは,当時,初めの5日間を162 mg/日,6日目以降を81 mg/日とするように推奨されていたとのことです。日本では,初めから100 mg/日で,そのまま継続することが標準的といえます。
今回は,TIA急性期治療について,改訂されたガイドラインの内容から解説しました。
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