top of page
執筆者の写真脳神経外科専門医 中嶋浩二

脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定における「壁」を突破するには


近年,交通外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定に関する事案は,弊事務所においても相談件数が増えています。

 高次脳機能障害は,運動麻痺とは異なり,「わかりにくい障害」であるため,被害者ご本人が苦しんでいるにもかかわらず,周囲の理解が得られにくい障害といえます。

 事故後,高次脳機能障害によって復職することができず,生活面でも大きな苦難を強いられている被害者も少なくありません。被害者にとって,適正な補償を受けることはとても大切です。

適正な後遺障害の認定を受けられず,不当に苦しんでいる被害者を救いたいと願い,私は脳神経外科専門医として,脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定に関する紛争の鑑定も多く手がけてきました。

 その経験をふまえ,今日は「脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定に関する紛争」について,どのような「壁」が存在し,その突破口についてご説明します。

「画像所見の壁」

 「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(平成30年5月31日付報告書)によれば,「脳の器質的損傷の判断に当たっては,CT,MRIが有用な検査資料であるという従前の考え方に変更はない」とされています。

 この点,脳神経外科領域において国内の主要な医学雑誌といえる「脳神経外科ジャーナル」で2013年に発表された論文では,新たな検査方法であるFA-SPM imageによって,びまん性脳損傷の可能性が指摘されています。わが国から発信された論文で,脳神経外科領域の主要医学雑誌にも掲載されたものなので,信頼性の高い内容といえます。

 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部国立身体障害者リハビリテーションセンターが2008年に示した高次脳機能障害者支援の手引き(改訂第2版)の診断基準でも,検査所見としてCT,MRIで脳の器質的病変が確認できることを重視しています。しかし,一方では「この診断基準については,今後の医学・医療の発展を踏まえ,適時,見直しを行うことが適当である」とも記載されています。CT,MRIで所見が得られなくても,経過や症状から明らかに脳外傷による高次脳機能障害と考えられる場合は,医学論文で有用性が証明された新たな検査方法で得られた結果をふまえて検討することも大切です。

 同様に,脳外傷後の画像で,経時的な脳室拡大や脳溝拡大などの脳萎縮を認めないとして,びまん性脳損傷の存在を否定されることがあります。この点,画像上,経時的な脳萎縮の進行は,びまん性脳損傷のなかでも重症例における所見です。脳神経外科学の成書にも,脳室拡大がないので高次脳機能障害ではないということは論理的に成り立たないと明記されているので,そういった内容を丁寧に説明する必要があります。

「意識障害の壁」

 受傷後の意識障害が軽度であったことを理由に,びまん性脳損傷の存在を否定されることがあります。しかし,労災保険では,「MTBI(軽度外傷性脳損傷)に該当する受傷時に意識障害が軽度であるものにあっても,高次脳機能障害を残す可能性について考慮する必要がある」旨の厚生労働省通達(平成25年6月18日付)が発出されていることから,患者についても,受傷直後の意識障害が軽度であったことを理由に,高次脳機能障害の可能性を否定することはできません。

「症状の壁」

 高次脳機能障害のうち,記憶・認知・言語の障害については,記憶検査,知能検査,失語症検査など,客観性のある検査で評価することができます。その一方で,社会的行動障害については,定量的,定性的に障害の程度を測定できる検査方法は確立されていないため,家族,介護者,職場の人間などから,日常生活における具体的なエピソードを聴取し,事故前後の性格・人格の変化を具体的に検討することや,主治医への照会によって障害の内容に関する客観的意見を踏まえたうえで検討することが必要です。

 これらは数ある「壁」の一部です。このほかにも多くの「壁」が存在します。しかし,真に脳外傷による高次脳機能障害と捉えられる症状があれば,必ず「壁」の突破口は存在すると信じています。何かお困りのことがあれば,ぜひ一度,弊事務所へご相談いただければ,心を込めて精査いたします。

 本日は脳外傷による高次脳機能障害の後遺障害認定に関する「壁」についてお話ししました。最後までお読みくださりありがとうございました。今後も弁護士の皆様にとって有用と思われる情報を発信していく予定です。どうぞよろしくお願いいたします。


bottom of page