私が所属している日本脳卒中学会の機関誌最新号に,「脳卒中急性期重症患者に対する早期経腸免疫栄養の効果」についての論文が掲載されていました。ホエイペプチド含有の免疫調整栄養剤を脳卒中急性期から投与すると,他の栄養管理を実施した場合と比較して,感染性合併症の頻度が有意に減少するとのことです。
脳卒中急性期では,感染性合併症と低栄養を回避することが非常に重要です。
そこで今回は、脳卒中急性期の栄養管理について,脳卒中治療ガイドライン2015で推奨されている項目を順に解説します。
■「脳卒中発作で入院したすべての患者で,栄養状態を評価するよう勧められる(グレードB)」
(解説)脳卒中発症急性期の低栄養状態は,独立した転帰不良因子であることが報告されています(Yoo SHら, Arch Neurol. 2008)。したがって,嚥下障害の有無にかかわらず脳卒中発作で入院したすべての患者で栄養状態を評価することが望ましいといえます。
■「低栄養状態にある患者,低栄養状態に陥るリスクのある患者,あるいは褥瘡のリスクがある脳卒中患者では,十分なカロリーや蛋白質の補給をするよう勧められる(グレードB)」
(解説)入院時に低栄養がある患者では,標準の栄養補助剤よりも多くのカロリーや蛋白質を含む栄養を強化した栄養補助剤を用いたほうが機能転帰は良く,褥瘡の発症率も低いと報告されています(Rabadiら, Neurology 2008)。
■「脳卒中発症後7日以上十分な経口摂取が困難と判断された患者では,発症早期から経腸栄養を開始するよう勧められる(グレードB)」
(解説)脳卒中発症1週以内に経腸栄養を開始した群と,少なくとも発症1週間は経腸栄養を回避した群を比較すると,経腸栄養早期開始群のほうが死亡率のリスクは低い傾向にあったと報告されています(Dennis MSら, Lancet 2005)。
■「脳卒中発症数週間は経鼻胃管(NGT)を行うよう勧められるが(グレードB),発症28日以上経腸栄養が必要な患者では経皮的内視鏡的胃瘻(PEG)を考慮しても良い(グレードC)。」
(解説)脳卒中急性期に経腸栄養を開始する場合は,経鼻胃管から投与することが推奨されています。長期的にはPEGを考慮してもよさそうです。
以上から,入院時に低栄養状態の脳卒中患者さんでは,すぐに経鼻胃管を留置して,経腸栄養を開始することが必要といえます。
なお,ドイツ臨床栄養学会が作成した脳卒中栄養ガイドラインには,次のように推奨されています。
・一時的に経静脈栄養を行った後,経腸栄養に移行する際には,グルタミンが多い流動食を用いるほうが,小腸粘膜の回復が早い。
・経腸栄養を始める際には,下痢を伴いやすいため,50~100 mLの白湯を先に投与し,その後に経腸栄養を投与するほうが良い。
脳卒中では,合併症の制御が患者さんの予後を左右することにもなります。急性期から栄養管理に十分な注意を払うことが必要です。