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執筆者の写真脳神経外科専門医 中嶋浩二

院内発症の急性硬膜下血腫で予後不良となる要因とは?


(2020.2.16)

代表医師の中嶋です。


今回も,1月29日の記事に続いて,急性硬膜下血腫を取り上げます。


急性硬膜下血腫は,頭部外傷による頭蓋内出血のなかでも,対応を誤ると死亡や重大な後遺障害につながる非常に重要な病態です。


医療機関に入院中の患者さんが転倒し,急性硬膜下血腫を発症したものの,迅速な対応がなされず,悪しき結果との因果関係が疑われた事例はまれではありません。


今回は,院内発症の急性硬膜下血腫例を調査し,予後不良となった例の特徴を調査した論文を紹介します。


今井亮太郎,林拓郎,田伏将尚ら:院内発症の急性硬膜下血腫の検討.神経外傷 2019; 42: 39-44.


対象:著者らの医療機関で2014年4月から2018年12月までの期間に,院内で急性硬膜下血腫を発症した11例を対象としています。

方法:Glasgow Outcome Scale (GOS) の1または2(死亡または植物状態)を予後不良群(6例),それ以外を予後良好群(5例)として,後方視的に比較検討を行っています。

結果:予後不良群では以下のような特徴が確認されました。なお,★がついている項目は,予後不良群と予後良好群の間で統計学的に有意差を認めたものです(p<0.05)。

・受傷時の安静後指示が,病棟内フリーや院内フリーといった制限の少ないものであった。


・受傷場所は,トイレ付近が多かった。


・頭部CT検査上,脳挫傷の合併を50%(3例)で認めた。一方,予後良好群では,0例であった。


★頭部CT検査上,硬膜下血腫の最大幅は,平均21.0 mmであった。一方,予後良好群では,平均8.3 mmであった。(※なお,手術適応は10 mm以上)


★正中偏位の距離は,平均12.8 mmであった。一方,予後良好群では,平均0.6 mmであった。(※なお,手術適応は5 mm以上)


・抗血栓薬の服用を50%(3例)で認めた。一方,予後良好群では1例のみであった。


★血小板数は,平均8.1万であった。一方,予後良好群では,平均22.7万であった。


・担癌状態が66.7%(4例),化学療法中が50%(3例)であった。一方,予後良好群では,1例のみが担癌状態であった。


考察:担癌状態では,過凝固を示す病態が起きやすいといわれていますが,一方で,しばしば血小板減少を合併して,易出血性を呈します。化学療法を受けている場合も,血小板減少を合併しやすいといえます。急性硬膜下血腫の重症化に直接関与するのは,血小板減少による一次止血機構の低下と考えられます。

 また,化学療法を受けている患者は,ADL(日常生活自立度)が比較的自立しているため,歩行中に転倒する危険性も低くないといえます。


 トイレ付近での転倒が多かったのは,高齢者の排尿・排便後における失神が転倒につながっていると推察されます。


 化学療法患者専用の転倒・転落アセスメントシートを作成した独自の対策が有効であるとの報告もあるようです。


結語:院内でADLが保たれている患者であっても,担癌状態,化学療法,抗血栓薬内服の転倒・転落による頭部外傷には,特段の注意を払うべきといえます。

これからも,弁護士の皆様の役に立つと思われる医学的知見を紹介していきます。

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