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執筆者の写真脳神経外科専門医 中嶋浩二

脳外傷による高次脳機能障害 「アパシー」について


(2020.3.20)

代表医師の中嶋です。


脳外傷による高次脳機能障害の社会的行動障害として,アパシーを認めることがあります。

アパシーとは,自発性の低下と言い換えることができます。

臨床的には,意欲(やる気)で出ず,感情が平板で,自ら行動を起こそうとしない症候を指します。

アパシーを認める例では,行動の開始が困難となり,家庭や職場での生活にさまざまな支障をきたします。

しかし,脳外傷による高次脳機能障害の症状として,アパシーは広く認知されているとはいえず,見落とされている例も散見されます

そこで今回は,アパシーについて詳述した論文を紹介したいと思います。


<今回紹介する論文>

酒井浩:前頭葉内側面損傷によって自発性低下と記憶障害を呈した事例に対する臨床的評価および介入.高次脳機能研究 2018; 38: 339-346.


「やる気スコア」で見落としを防ぐ

「やる気スコア」は,「新しいことを学びたいと思いますか?」「何か興味を持っていることがありますか?」「何かをやろうとする意欲はありますか?」等,14項目の質問について,それぞれ0~3点で評価し,合計で16点以上をアパシーと判断します。非常に簡便な検査法です。

インターネット上でも公開されているので,ぜひ一度,ご覧ください。

アパシーの見落としを防ぐためにも,交通事故で頭部外傷を負った被害者で,「やる気スコア」の質問事項に挙げられている状態を認めた場合は,アパシーの存在を疑うべきです



アパシーの病巣を理解する

アパシーは,前頭葉のなかでも,①前頭前野内側部,②前頭前野眼窩部が関係し,さらに,これらの部位とネットワークを形成する大脳基底核も発症に関係していると考えられています。


①前頭前野内側部

前頭前野内側部の損傷では,自動的活性化処理の障害が生じるといわれています。

自動的活性化処理の障害は,心的自己賦活障害ともいわれ,外部からの誘導があれば,行動を開始できるが,自らは行動を開始できない状態のことです。

この自動的活性化処理の障害は,アパシーの中核的症状と考えられています。しかし,この障害に対する効果的なリハビリテーションの方法は確立していません。

したがって,前頭前野内側部の損傷を認める例では,難治性のアパシーが残存し,その後の日常生活に大きな支障をきたしうるといえます。


②前頭前野眼窩部

 前頭前野眼窩部の損傷では,情動・感情的処理の障害が生じ,無感情なまま行動するか,情動が喚起されないため,行動を開始できない状態のことです。



 以上の論文内容から,交通事故による頭部外傷例で,画像上,前頭葉に損傷を認めた場合は,アパシーの可能性を疑い,「やる気スコア」でスクリーニングを実施することで見落としを防ぐ必要があります。

 そして,スクリーニングの結果,アパシーの可能性が高いといえる場合には,その症状が画像上の損傷部位と整合するかどうかを評価し,後遺障害としての高次脳機能障害を主張可能かどうか検討すべきです。


これからも,弁護士の皆様の役に立つと思われる医学的知見を紹介していきます。

ご意見・ご質問は,本サイトのお問い合わせフォームよりお寄せ下さい。


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