(2019.5.2)
代表医師の中嶋です。
本日は,頭部外傷による高次脳機能障害の症状である「注意障害」についてです。
高次脳機能障害は,交通事故や労災でも問題となる障害です。
「注意障害」は,その言葉からは何となくイメージはできるけど,十分理解するのが難しい障害だと思います。
そこで,今回は,一般社団法人 日本高次脳機能障害学会が編集した書籍を参考に,頭部外傷後の注意障害について,要点をまとめたいと思います。
参考としたのは次の書籍です。
タイトル:『頭部外傷と高次脳機能障害』
一般社団法人日本高次脳機能障害学会 教育・研修委員会 編
株式会社 新興医学出版社
2018年1月10日第1版発行
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1 注意機能は他の認知機能の「土台」
注意機能に相当する「注意力と集中力」は,他の認知機能である「記憶」,「遂行機能」等の土台となり,注意機能が障害されると,他の認知機能が適切に働かないことになります。
2 頭部外傷では全般性注意障害が多い
注意障害は,全般性注意障害と方向性注意障害に分類されます。
頭部外傷では,全般性注意障害が多いとされています。
全般性注意障害は,さらに次の4つに分類されます。
(1) 持続性注意
持続性注意が障害されると,一定時間,集中することができない,または集中できる時間が短くなることで,作業量の減少や,作業効率の悪化を認めます。
例:本を続けて読むことができず,途中で飽きてしまう
何度も繰り返し指示しないと作業ができない
(2) 選択性注意
選択性注意が障害されると,必要な事柄を聴覚的または視覚的に選択し,反応することができなくなり,不要な刺激を取り入れてしまいます。
例:本棚から探している本を見つけ出すことができない(視覚的な選択の障害)
人混みの中で会話を聞き取れない(聴覚的な選択の障害)
(3) 分配性注意
分配性注意とは,複数の刺激に対して働く機能のことです。
分配性注意が障害されると,2つ以上の事柄を同時に行うことができなくなります。
例:料理において,魚をさばきながら煮ている鍋の状態を確認できない
講義を聞きながらメモを取れない
(4) 転換性注意
転換性注意が障害されると,注意を向けていたものから他の刺激に注意を切り替えることができなくなります。
例:作業中,他者から話しかけられてもすぐに返事ができない
電車内で人と会話中,アナウンスが流れても聞くことができない
3 全般性注意障害をきたしうる病巣の局在
全般性注意は,前頭葉,頭頂葉,視床,脳幹網様体などあらゆる神経回路が関与しているため,全般性注意障害の病巣を指摘することは難しいといわれています。
注意の制御は,前頭前野で行われています。したがって,前頭前野の損傷では,分配性注意や転換性注意が障害されることがあります。
また,脳幹網様体から視床,皮質への賦活系が障害されると,意識および覚醒度の悪化に伴い,持続性注意の障害が起こりえます。
4 注意障害の存在を疑うことが大切
注意障害の症状として,
「注意力が散漫である」
「作業の見落としがある」
「気が散ってしまう」「集中力が続かない」
「作業に時間がかかる」
「一つの物事に固執する」
「ぼんやりとしている」
「反応が鈍い」
「話についていけない」
「同時に2つのことができない」
などが挙げられます。こういった症状で注意障害を疑い,次に,行動観察と机上検査による評価を行い,総合的に判断します。
5 行動観察と机上検査
注意障害の行動観察としては,
・脳損傷患者の日常生活による注意評価スケール(Rating Scale of Attentional Behavior: RSAB)日本語版
・Moss Attention Rating Scale (MARS) 日本語版
が用いられています。
注意障害の代表的な机上検査としては,
・トレイルメイキングテスト(Trail Making Test: TMT)
・標準注意検査法(Clinical Assessment for Attention: CAT)
が挙げられます。
行動観察と机上検査については,またの機会に詳細を解説したいと思います。
今回は,高次脳機能障害の主要な障害の一つである注意障害について,要点をまとめました。
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