(2020.5.20)
代表医師の中嶋です。
今回は,交通事故の後遺障害等級で,しばしばご相談をお受けする,低髄液圧症候群について,取り上げたいと思います。
外傷に伴う低髄液圧症候群では,造影MRIでの「びまん性の硬膜造影所見」が有名です。
日本脳神経外傷学会の「外傷に伴う低髄液圧症候群」の診断基準でも,「大基準」として,「造影MRIでびまん性の硬膜肥厚増強」が挙げられています。
この「増強」とは,造影剤による造影効果を認めることを指します。
具体的には,MRIの画像上,造影剤によって,硬膜が「真っ白」に見えます。
もちろん,正常では,「真っ白」に見えることはありません。
つまり,「硬膜肥厚増強」の所見とは,MRI上,「硬膜が真っ白で,しかも厚く」見えることをいいます。
それでは,なぜ,「低髄液圧」だと,「びまん性の硬膜造影所見」を認めるのか,以下にその機序を説明します。
頭蓋内(頭蓋骨に囲まれた内部)では,「脳容積+脳脊髄液量+頭蓋内血液量=一定」という関係が成り立つとされています。
脳容積はほとんど一定であるため,例えば,外傷によって,脳脊髄液の産生量を上回るほどの漏出がはじまり,その結果,脳脊髄液減少が発生すると,頭蓋内の容量を一定に保つために,代償性の頭蓋内血液量の増加,つまり頭蓋内充血が起こります。
「びまん性の硬膜造影所見」は,脳脊髄液減少によって生じた,硬膜の充血を捉えているのです。
したがって,造影MRIで「びまん性硬膜造影所見」を認めるということは,「脳脊髄液の減少」を表しているのであって,「低髄液圧」であることを表しているわけではありません。
「低髄液圧」であることを確認するためには,腰椎穿刺によって,脳脊髄液の圧が60 mmH2O以下を証明する必要があります。ただし,腰椎穿刺は,腰から針を刺して,背骨のなかの脳脊髄液が存在する深さまで針を進めて圧を測定するため,侵襲のある検査といえます。加えて,腰椎穿刺によって,脳脊髄液が新たに漏出する危険性もあります。
上記の日本脳神経外傷学会「外傷に伴う低髄液圧症候群」の診断基準では,「前提基準」として,「起立性頭痛」「体位による症状の変化」が挙げられています。これらは低髄液圧で見られる典型的な症状です。このいずれかを認め,大基準である「びまん性の硬膜造影所見」を造影MRIで証明すれば,腰椎穿刺で髄液圧を測定しなくても,「低髄液圧症候群」と診断することができるのです。
Comments