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執筆者の写真脳神経外科専門医 中嶋浩二

高血圧性脳出血の手術適応について


高血圧の重大な臓器障害として,脳出血が挙げられます。これは高血圧によって脳動脈が影響を受け,脳動脈から出血する疾患です。高血圧の治療が普及した現在においても,非常に怖い病気であることに変わりはありません。

 さて,高血圧性脳出血の治療は,どのようなものがあるでしょうか。われわれ脳外科医としては,すぐに手術で出血を取り除けば,症状が改善します!といいたいところですが,実際は慎重な判断が求められます。

 今回は「脳卒中治療ガイドライン2015(以下「ガイドライン」といいます)における高血圧性脳出血の手術適応について解説します。

 まず,脳出血の部位に関係なく,血腫量10mL未満の小出血または神経学的所見が軽度な症例は手術を行わないように勧められる,となっています。これは,当然といえば当然です。さらに,意識レベルが深昏睡(Japan Coma Scaleで300)の症例に対しても,血腫除去術は科学的根拠がないとされています。

 次に,ガイドラインでの推奨のグレード別に列挙します。

 ガイドラインの推奨のグレードとは,次のように定義されています。

 A:行うことを強く勧められる

 B:行うよう勧められる

 C1:行うことを考慮しても良いが,十分な科学的根拠がない

 C2:科学的根拠がないので,勧められない

 D:行わないよう勧められる

 まず,高血圧性脳出血の手術について,グレードAとされているものはありません

 つまり,行うことを強く勧められる手術はないのです。

 次に,グレードBとされているのは,たった一つです。

 それは,Japan Coma Scaleで20~30程度の意識障害を伴う被殻出血に対する,定位的脳内血腫除去術です。これだけです。

 その他の多くは,グレードC1とされています。

 具体的には,

  • 被殻出血で,血腫量が31mL以上でかつ血腫による圧迫所見が高度な症例に対する開頭血腫除去術

  • 視床出血で,血腫の脳室内穿破を伴う場合の脳室拡大の強い症例に対する脳室ドレナージ術

  • 皮質下出血で,脳表からの深さが1cm以下のもの

  • 小脳出血で,最大径が3cm以上,神経学的症候が増悪している場合,小脳出血が脳幹を圧迫し脳室閉塞による水頭症を来している場合の手術

  • 脳幹出血で,脳室内穿破による脳室拡大の強い症例に対する脳室ドレナージ術

  • 成人の脳室内出血で,急性水頭症が疑われる症例に対する脳室ドレナージ術

  • 脳内出血あるいは脳室内出血の神経内視鏡手術あるいは定位的血腫除去術

が挙げられています。繰り返しになりますが,これらはすべて,グレードC1なので「行うことを考慮しても良いが,十分な科学的根拠がない」というレベルであることを理解する必要があります。

 さらに,視床出血や脳幹出血で,急性期治療としての血腫除去術はグレードC2とされています。つまり,「科学的根拠がないので,勧められない」というレベルです。

まとめ

 こうして改めてガイドラインを見直すと,高血圧性脳出血に対して,十分な科学的根拠のある手術治療はほとんどないといえます。やはり最重要なのは予防です。また,患者さんやご家族に治療方法を説明するわれわれ医師は,手術治療の有効性について,正確な情報を提供する必要があるといえます。

 今後も弁護士の皆様にとって有用と思われる情報を発信していきたいと思います。よろしくお願いいたします。


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