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  • 執筆者の写真脳神経外科専門医 中嶋浩二

静脈経腸栄養ガイドライン第3版の要点


 脳卒中では意識障害によって、口から食事を摂ることができなくなる場合があります。その場合、患者さんの栄養状態を維持するために、栄養の投与方法を考えなくてはなりません。そこで今回は、脳神経外科領域だけではなく、臨床医学のあらゆる領域で関係の深い静脈経腸栄養、特に中心静脈カテーテル(以下、「CVC」という)の管理について解説します。

 CVCの臨床における最大の問題は、カテーテル関連血流感染症(catheter-related bloodstream infection: CRBSI)です。このCRBSI(←略語なのに長い!)を防ぐためには、カテーテルの管理について、習熟している必要があります。

 しかし、CVCの管理方法は、各医師、各医療機関の慣習に基づいて行われていることが多く、事故発生時には、医療水準の判断が難しい分野といえます。そこで、もう一度、エビデンスに基づいたCVCの管理方法を復習するために、静脈経腸栄養ガイドライン第3版の内容をご紹介します。

 なお、このガイドラインは2013年に発行されました。

 それでは、内容を順番に見ていきます。

■栄養療法が必要な場合は可能な限り経腸栄養を選択する

 つまり、無駄なCVC留置はやめましょう、ということです。そうすれば、CRBSIを減らすことができる。当たり前です。

 一般的に、静脈栄養の実施期間は2週間以内の場合は末梢血管栄養、それ以上の場合は中心静脈栄養を選択します。

■必要最小限の内腔数のカテーテルを選択する

 CVCとして、臨床現場では、同時に複数の輸液や薬剤を投与できることから、内腔が複数あるマルチルーメンカテーテルを頻用する傾向にあります。しかし、マルチルーメンカテーテルは、内腔がひとつしかないシングルルーメンカテーテルと比較して、感染の危険が高くなると報告されているので注意が必要です。

感染防止のためには、鎖骨下静脈穿刺を第一選択とする

■感染防止のためには、大腿静脈からの挿入は避ける

 これは鎖骨下静脈、内頸静脈、大腿静脈へのCVC挿入に関連した感染の危険性を比較した試験に基づいています。

 ただし、穿刺に伴う機械的合併症(気胸、血胸など)の発生頻度は、鎖骨下静脈穿刺よりも内頸静脈穿刺や大腿静脈穿刺のほうが低いとされています。

 つまり、鎖骨下静脈穿刺は、感染防止には良いが、機械的合併症に注意、ということです。

■穿刺回数を減らして機械的合併症を減らすためには、エコーガイド下穿刺法が有用である

 CVC挿入時の穿刺回数の増加は、機械的合併症の危険性が高まるだけではなく、感染の危険性も高めることが報告されています。その予防対策として、エコーガイド下穿刺法が有用です。しかし、エコーガイド下穿刺法は十分なトレーニングが必要です。病院によっては、インストラクター制度を導入しています。今後、このような動きはさらに広まると考えられます。

■穿刺の安全性の面からは、PICC(peripherally inserted central catheter;末梢挿入式中心静脈カテーテル)の使用が推奨される

 PICCでは穿刺に伴う合併症がほとんど発生しないといわれています。欧米では、CVC挿入の第一選択としている施設も多いです。さらに、CVC挿入時の患者さんの恐怖心を軽減できるという利点もあります。

■CVC挿入後は、必ずX線写真を撮り、先端位置が適正であること、合併症が発生していないことを確認する

 必要に応じて位置を調節します。大腿静脈穿刺ではカテーテルの先端が腎静脈よりも中枢側にあることを確認します。

■定期的にCVCを入れ換える必要はない

定期的なCVC入れ換えを否定するものではないが、新たに挿入する場合の機械的合併症を考慮してこのような推奨となっています。

CVC挿入時の皮膚消毒には、クロルヘキシジンアルコールまたはポピドンヨードを用いる

 消毒は挿入部から外へと円を描くように行う、消毒の範囲はドレッシングで覆われる範囲以上にする、ポピドンヨードは1-2分以上皮膚と接触しなければ殺菌作用が得られない、といった点に注意します。

CVC挿入時には高度バリアプレコーション(滅菌手袋、長い袖の滅菌ガウン、マスク、帽子と広い滅菌覆布)を使う

 広い滅菌覆布とは、全身を覆うことができる程度の広さ、となっています。

 以上が、挿入に伴う注意点です。ここからは、挿入後のCVC管理に関して、要点を列挙します。

■CVC挿入部には抗菌薬含有軟膏やポピドンヨードゲルは使用しない

■CVC挿入部のドレッシング管理は、滅菌されたパッド型ドレッシングまたはフィルム型ドレッシングを使用する

■ドレッシングの交換は週1-2回、曜日を決めて定期的に行う

■CVCの輸液ラインでは、手術室やICU以外では三方活栓を組み込まない

■CVCの輸液ラインではインラインフィルターを使用する(微生物をトラップするためだが、フィルターがCRBSIの発生頻度を下げたことを示すエビデンスはない)

■輸液ラインとCVCの接続部の消毒には、消毒用エタノールを用いる

■CVCをロックする場合は、プレフィルドシリンジのヘパリン加生理食塩液を用いる

 以上です。私自身も良い復習になりました。

 今後も弁護士の皆様にとって有用と思われる情報を発信していきたいと思います。よろしくお願いいたします。


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